11 大阪高裁S58.10.27判決
判時1112-67、判タ524-231
・四階建てビルの建築工事について、建物が、主要構造部に重大な欠陥を有し、
構造上安全の保持を期し得ない危険なものであり、瑕疵の補修は建替え工事に
よるほかないとして、建替え費用相当額を損害として認容した事例
・瑕疵修補に代わる損害賠償として、営業不能による逸失利益、アパート賃借料、
鑑定費用、慰謝料を認容した事例。
・建物の建築を請負わせた注文者は、右建物が競落されてその所有権及び占有権
を失つた後でも、修補に代る損害賠償請求権を失わないとした事例
・工事担当取締役に対し、商法266条の3に基づき、損害賠償責任を肯定した事例
事案の概要
1、注文者Y、建設会社X1、X1の工事担当取締役で実質的な代表権を有するX2
2、X1は、Yから、四階建て住宅兼店舗ビルの新築工事を請け負い施工した。
3、X1は、Yに対し、請負代金の支払いを請求した。
4、Yは、本件建物には瑕疵があるとして、相殺の抗弁を主張するとともに、X1
に対し、請負人の瑕疵担保責任及び不法行為等の責任に基づき、損害賠償請求
をし、X2に対し、商法266条の3、法人格否認の法理等に基づき、損害賠償を請
求した。
裁判所の判断
1、建替え費用864万8000円
右認定のような本件建物の瑕疵、特に前記(1)、ロで認定したような基礎
礎版、アンカーボルト、柱とそのカバープレート、柱と梁の接合、床等の各瑕
疵によれば、本件建物はその主要構造部に重大な欠陥を有し、構造上その安全
の保持を期しえない危険なものであつて、〈証拠〉によれば本件建物の右瑕疵
の補修は、建て替える以外には不可能もしくは著しく困難であり、結局、建て
替え工事をするよりほかないことが認められる。ところで、請負の目的物の瑕
疵の修補に代る損害賠償においては、右瑕疵がなければ存しうる利益について
これを損害として賠償を求めうるものであるが、前記のように目的物たる建物
が建て替えるほかないような場合には、その建て替え費用が瑕疵のない目的物
の価格相当額に当るものとして、その賠償を求めうる損害にあたるものと解す
るのが相当である。しかして、請負の目的物の瑕疵につき修補の請求をし、次
いで修補に代る損害賠償の請求をした場合には、その損害額算定については右
修補請求のときを基準とすべきものである。
2、喫茶店の営業不能による損害720万円
〈証拠〉によれば、控訴人は、昭和45年12月頃から本件建物一階で前記1、
(1)、ロ、ハ、ニで認定したような本件建物の壁、雨漏り、電気設備につい
ての瑕疵を補修しながら喫茶店を営んでいたが、昭和52年9月頃雨漏りがひどく
なつて漏電の心配が強まつたため、動力用電力の供給をとめられ、右営業を廃
業するのやむなきにいたつたこと、右営業期間内における控訴人の右営業によ
る純収益は各月60万円をくだらなかつたこと、右営業実績を基準としてみると、
前記瑕疵による廃業の事態がなければ、引き続き右程度の収益を継続しえたも
のであることが認められる。したがつて、本件請負工事の瑕疵により、控訴人
は昭和52年10月から同53年9月までの間に得べかりし純収益合計720万円を喪失
したことになる。
控訴人は、昭和53年10月以降同五七年四月まで月60万円の割合による右収益
を喪失した旨主張するが、〈証拠〉によれば、本件建物とその敷地については、
昭和48年4月16日付競落許可決定があり、同年6月1日右競落許可決定の確定によ
り競落人戸城武男がその所有権を取得し、昭和50年頃から他人を介して本件建
物とその敷地について控訴人の立退きを目的とする買取交渉や立退き交渉など
があり、そのため、控訴人は、昭和53年10月本件建物から立退いて大阪市緑橋
の附近のビルの一階(前記喫茶店と同じ位の大きさの店)を賃借して「おにぎ
り屋」を開業し、同54年12月頃まで営業していたことが認められるから、右事
情からすれば、控訴人主張の昭和53年10月以後の損害については、もはや前記
瑕疵との間に相当因果関係を認めることができず、右損害部分の主張は失当と
いうべきである。
3、他にアパートを賃借したことによる損害52万6500円
〈証拠〉によれば、控訴人は、前記1、(1)、ハで認定したような本件請負
工事の瑕疵により本件建物の三、四階(居住部分)の雨漏りがひどく居住に適
さないため、昭和47年1月1日本件建物の近くの西淀川区福町2丁目20番地のアパ
ート清和荘の二室を賃料月6500円で賃借し、同所から本件建物一階の喫茶店に
通うこととなり、昭和47年1月から同53年9月までの間に賃料合計52万6500円を
支払つたことが認められるから、控訴人は前記瑕疵により同額の損害を被つた
ことになる。
4、鑑定、検査等費用91万6800円
〈証拠〉によれば、控訴人は、被控訴会社が本件請負工事の瑕疵を争い、か
つ、右瑕疵が本件建物の基礎や主要構造部に関するなど建築専門家による鑑定、
検査を必要とし、右瑕疵の種類、性質、程度によつては建て替えの要否という
判定困難の事情があるため、その点の資料を収集すべく、建築専門家の判断を
経ることにし、一級建築士坂井利明に対して本件建物の現状と建築確認申請記
載の内容との相違、本件建物の補修工事費の内容及びその費用の算定その他の
事項について調査、鑑定を依頼し、・・・中略・・・を支出したこと、以上の
事実が認められ、右事実のほか前叙認定のような本件請負工事の瑕疵の内容、
程度、その判定の困難性等を合わせ考えると、控訴人が支出した右鑑定料、検
査料等合計91万6800円は本件請負工事の瑕疵と相当因果関係にある損害と認め
るのが相当である。
5、慰藉料100万円
前記認定のような本件請負工事の瑕疵の性質、規模、程度のほか、原審及び
当審での控訴人本人の供述(原審は第一、二回)によれば、控訴人は、昭和35
年夫が死亡して以後生命保険の外交員などをして娘との二人暮しの生活を支え、
区画整理の際の立退料、殖産住宅の積立金その他を資金にして向後の生活設計
のため本件建物を建築すべく、前叙のように被控訴会社と本件請負契約を結ん
だこと、本件建物に入居後も雨漏り、透き間風があり、ガスや風呂も使えない
状態であり、外壁タイルの落下等の事態も生じ、その間、控訴人は補修の請求
や補修の実施等に心労したこと、その後も外見上の瑕疵のみならず、本件建物
の基礎、主要構造部に逐次重大な欠陥があつて建て替えを相当とすることが判
明し、その間、控訴人は資料収集のため奔走し、時間的資力的にも多くのもの
を費したこと、他方、被控訴会社側は後に説示するように本件請負工事の瑕疵
について重大な過失があるというべきであるのに、被控訴会社は控訴人の再三
にわたる修補請求に応ずることがなかつたことが認められるから、以上の各事
実を斟酌すると、控訴人としては前認定の損害の賠償だけでは回復しがたい深
刻な精神的苦痛を被つているものというべく、これを慰藉するには100万円を
もつて相当と認める。
5、再抗弁(五)について
本件建物について、強制競売が開始されて昭和48年4月16日競落許可決定があ
り、同年6月1日右競落許可決定の確定によりその所有権が競落人戸城武男に移
転したことは前叙認定のとおりである。
被控訴会社は、競落人の前所有者に対する瑕疵担保請求権は発生しないから
(民法570条但書)、控訴人の主張する瑕疵の修補に代る損害賠償請求権も前記
競落に伴う本件建物の所有権喪失によつてすべて消滅した旨主張するが、民法
570条但書は競売の場合においては売買の瑕疵担保責任が存しない旨定めるだけ
であり、これに対し、前所有者が注文者として請負人に対して有する請負の瑕
疵の担保責任に基づく請求権は、注文者の契約上の地位に基づくものであつて、
注文者が目的物の所有権を第三者に譲渡した後も存続するものであつて、前記
競落によつて消滅する理はないものである。
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