12 山形地裁新庄支部S60.2.28
判時1169-133
・建物建築請負工事において、社会通念上完成していると認定し、瑕疵が残って
いるにすぎないとした事例
・請負人の注文者に対する工事代金債権と、注文者の請負人に対する瑕疵修補に
代わる損害賠償債権とを相殺することを認めた事例。
事案の概要
1、建設会社Xは、注文者Yから、医院兼住宅の建築工事を請け負った。
2、Xは、Yに対し、工事代金を請求した。
3、Yは、工事は未完成であるので完成引渡まで代金支払いを拒絶すること、工
事代金と損害賠償請求権とを相殺することを主張した。
裁判所の判断
1、工事の完成引渡しについて
これについては、次のとおり、結局これを認めるべきである。
すなわち、ここにいう工事完成とは、民法634条にいう「瑕疵」との対比にお
いて、工事が、その予定された最後の工程まで一応終了し、かつ、構造上、用
途上重要な部分が社会通念上約旨に従つて施行されていることをいい、たとえ
その完成に至るまでの施工者の中に請負人以外の者がいたとしても、客観的完
成の事実の有無を問題にしているのであるから、客観的に見て完成といえる以
上、同法632条にいう「完成」に該当し、ただ、それが不完全なために、修補を
加えなければ完全なものとならない場合には、これを瑕疵としてとらえ、あと
は同法634条以下の担保責任としてのみ追及できるものと考えるのが相当である。
これを本件についてみるに、《証拠略》を総合すれば、現在において、原告
主張の本工事を始めとする各工事については、次のような90点余りにわたる補
修をすべき点のあることが認められる。《証拠判断略》
右で認定した補修を要する部分は、極めて多数に上るばかりか、《証拠略》
を総合すると、当初、多数かつ重大な欠陥部分が、右で認定した要補修部分に
まで減少したのは、注文者である被告が頼んだところの原告以外の業者の力に
よるところが多いことが認められる。
しかしながら、請負人である原告以外の者の手で完成したとしても、完成と
いうを妨げないことは、前記「完成」の概念のところで示したところから明ら
かであり、多数の欠陥部分が残っているものの、これを医院及び住居として現
に使用中であることは、被告本人の自認するところであるばかりか、これに
《証拠略》を総合すると、原告において、被告の細かい注文に怒って昭和54年
12月下旬に本件各工事の切上げてしまったとはいえ、その工事は、補修すべき
部分を残しつつも、予定された最後の工程まで一応終了しておりしかも、右の
要補修部分を個別的に見ても、調整、交換、清掃、補強、貼付、貼換、取付設
置、塗装等といった、細々したやり直し的なものが大部分であるうえ、後記二
3(二)で認定したとおり、右未補修分の補修費用相当損害金は、一億円を越
える本件工事代金に比し、581万5000円に止まっており、それが補修されなけれ
ば、医療活動に重大な支障が生じるとか、居住するうえにおいて、社会通念上
とうてい受忍しがたいといった程のものは見当らず、結局は、構造上及び用途
上重要な部分が社会通念上約旨に従って施工されているものと認められる。
そうすると、右補修を要する部分は、全体としては、前記「瑕疵」に止まる
というべきであって、これを以て全体として「未完成」というのは当たらない。
2、相殺の抗弁について
さて、自働債権に同時履行の抗弁権が付着している場合には、相殺は許され
ないとされている。相殺者の一方的意思表示で相手方の抗弁権行使の機会を失
わしめる結果となるからである。
しかし、原告は、被告の右相殺の主張に対し、右同時履行の抗弁を主張して
いない。
だが、相殺の場合には、相殺の相手方がこの抗弁権を行使しなくても、相殺
者の一方的意思表示で相手方の抗弁権行使の機会が喪失するという弊害は同じ
であるから、この抗弁権の行使つまり主張がなくても、この抗弁権の存在自体
の効果として、相殺は許されないものと解すべきである。
相殺と同時履行の関係は、一般論としては右に述べたとおりであるが、そこ
で相殺が許されないとされている理由は、要するに「債務ノ性質カ之ヲ許ササ
ルトキ」(民法505条1項但書)に該当するからと解されるので、為す債務や不
作為債務などのように、両債権について個別に実現に履行をしなければ、その
債権を成立させた目的が達せられない場合に当たるかどうかによつてその許否
が決せられることになる。
ところで、注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は、請負人の債務不履
行のない場合にも無過失責任の形で、瑕疵という価値の減少に対する損害賠償
として生じるものであるから、本来の債務と同一性をもつものではないので、
民法533条が正面から妥当するものではないが、衡平の見地から考え、履行上
の牽連関係を認めて同時履行の関係におくこととし、これを同法634条2項に規
定したものと考えられる。そうすると、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権の本
旨は、実質的・経済的には、請負代金を減額し、請負契約の当事者が相互に負
担している債務間に等価関係をもたらすところにあり、互いに同一の原因関係
に基づく金銭債権であるところからすれば、瑕疵という価値の減少を金銭に見
積ったうえで、これと工事代金債権とを等価的に清算することつまり両債権の
間で相殺を認めることにより衡平と便宜が実現されるのであって、相殺による
相手方が抗弁権喪失の不利益は存在しないことになり、要するに、両債権とも
に、現実に履行をしなければ、その目的が達せられなものではないから、両債
権間に同時履行の関係を認めつつも、相殺を認めてよく、相殺が対当額につき
その効力を生じる点から考えれば、両債権額に差異があっても相殺を認めるの
が相当である。
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