13 東京地裁H5.3.24
判時1489-127
・地下室の防水処理が不十分であったり、擁壁の強度が不十分であり崩壊のおそ
れがある土地建物を売却した不動産会社に、過失を認め、不法行為責任を認定
した事例。
・瑕疵ある土地建物の売り主たる不動産会社に、不法行為に基づく損害賠償とし
て、擁壁工事費用、建物取り壊し・新築費用、慰謝料、弁護士費用を認めた事
例
事案の概要
1、Xは、Yから、土地建物を購入した。
2、本件土地は、急傾斜地上にあり、南側に擁壁があった。本件建物には、地下
室がついていた。
3、地下室には防水処理がなされておらず、大量のかびが発生して使用不能とな
り、擁壁は十分な強度を有せず崩壊した。
4、Xは、Yに対し、建物を取り壊して新建物を建築せざるを得なかったと主張
して、不法行為に基づく擁壁工事費用、建物取壊・新建物建築費用、慰謝料な
どの損害賠償を請求した。
裁判所の判断
一、Yに対する損害賠償請求について
1、地下室について
そこで、本件地下室を建設し、これを原告に売却した被告水戸建設に過失
が認められるかどうか検討する。
地下室は、地中に含まれる水分が侵入しやすいものであるので、防水処理
等を怠った場合には、地下室内に多量の水分が侵入し、その湿気により地下
室内に存置した物が多量の湿気にさらされ、また、大量のかび、虫等が発生
し、これにより居住者の健康に多大の悪影響を及ぼす可能性があることは経
験則上明らかであるから、地下室を構築したうえで売却する者は、地下室に
防水処理を行い、湿気に伴う右のような人的物的損害を回避すべき注意義務
を有しているといえる。
ところが、被告水戸建設が本件土地建物の売主としてなすべき防水・防湿
処理は不十分であったことが認められる。すなわち、原告供述により認めら
れる前記各事実、特に原告が本件建物に入居してわずか一週間で本件地下室
の壁全体に結露を生じ、事実上地下室としての使用に耐えなくなったこと自
体、被告水戸建設の施した防水工事が不十分であったことを窺わせるに足り
るものである。しかも、原告供述によれば、地下室が使用できなくなった後
に内装を撤去すると、床に張ってあったべニア板の下が直接土であったこと
が認められ、いかにずさんな工事であったかが窺える。この点、被告水戸建
設から請負って実際に地下室の工事をした山田は、このような工法が一般的
であるかのように証言しているが、その合理性を説明できないものであり、
防水・防湿処理の観点から到底信じがたい。
また、被告安田、証人山田は、本件地下室に設置した二台の換気扇により
二四時間の強制換気をすればこのような湿気を防ぐことができ、そのように
原告に指示したのに、原告がこれを行わなかったため湿気が生じたというが、
二四時間の強制換気をしなければ、このような湿気が発生することを防げな
いようでは、防水・防湿処理が十分なものであったとは到底いえないという
べきであり、被告水戸建設には、本件地下室に十分な防水・防湿処理を施さ
ないまま、これを付置した本件建物を売却した過失が認められる。
2 本件擁壁の崩壊について
右事実に照らして考えると、本件擁壁が崩壊した原因は、本件擁壁が昭和
六一年頃から板橋区によって崩壊の危険性の高い擁壁であるとの指摘を受け、
改善勧告を受けていたような弱い構造を有しており、雨水等による地盤の軟
弱化が進んでいたことに加え、本件擁壁付近に継ぎ目をビニールテープで巻
いただけの塩化ビニール製の本件排水管を設置し、その排水も悪かったこと
と相まって、右継ぎ目から排水が継続的に漏れ本件擁壁の背面に多量の水分
が浸潤して地盤が一層軟弱化していたことにあるものと考えられる。被告水
戸建設は、昭和五七年頃に販売目的で本件建物等を建築したものであるが、
本件擁壁は、早くも昭和六一年頃には板橋区から崩壊の危険のある擁壁であ
るとの指摘を受け、改善勧告がなされるような崩壊の危険の高い擁壁であっ
たというべきであるから、右建築に当たっては、本件擁壁に崩壊の危険がな
いかどうかについて十分に調査を尽くし、その結果崩壊の危険があるならば
改めて十分な強度を有する擁壁工事を施行すべき注意義務があったというべ
きである。しかるに、被告水戸建設は、自ら本件擁壁の強度等の検査を全く
行わず、かつ右工事を請け負わせた山田がこれを履行したことの確認もしな
いで、本件土地建物を原告に売却したものであるから、被告水戸建設には、
右の点の注意義務を怠った過失がある。
また、本件排水管は、前記のとおり、おおむね本件建物が建築された頃に
埋設されたものと推測されるところ、右建築に際し、高見沢の要望で、本件
建物及び隣接建物の崖側の側面に水道管が設置されていることからすると、
本件排水管は、右水道管の排水用にその当時山田あるいはその下請け(孫請
け)の業者によって設置されたものと認めるのが相当である。《証拠判断略
》被告水戸建設としては、前記のような本件擁壁の状況から、排水の処理に
ついては細心の注意を払う必要があったにもかかわらず、不適切な排水管の
設置がなされたままの本件土地建物を原告に売却したものであり、この点に
ついての過失も認めることができる。
3 損害について
(一) 原告長男の治療費
因果関係を認めるに足る証拠があるとはいえない。したがって、前記治
療費は被告水戸建設の不法行為による損害といえない。
(二) 擁壁工事関係
(1) 擁壁工事費用
そもそも、本件擁壁が崩壊したままでは、崩壊が本件建物の地盤にも
及び危険な状態となるおそれがあったから、擁壁を修復する必要があっ
たことが認められるところ、《証拠略》によれば、原告は日本建築設計
株式会社に対し二次災害防止工事費用及び工事図面代として一一万一六
○○円を、山善工事に本件擁壁修復工事代金として四三○万円をそれぞ
れ支払ったことが認められ、右合計四四一万一六○○円が本件不法行為
と相当因果関係のある損害と認められる。
(2) 新築費用
イ 《証拠略》によれば、本件擁壁の一部崩壊により、残部についても
崩壊の危険がある状態となったこと、そこで、本件擁壁を全面的に撤
去したうえで、強固な擁壁を改めて構築する必要があったが、本件建
物が本件擁壁に接近して建築されており、しかも本件建物の基礎とし
て本件地下室があったため、本件擁壁を全面的に撤去すると、本件建
物が全面的に崩壊する危険があったこと、そこでやむを得ず本件建物
を全面的に取り壊したことが認められる。
ロ この点被告は、本件擁壁の崩壊によって本件建物に影響がなかった
こと、崖下から本件擁壁工事を行えたから、本件建物を壊して新たに
建物を建てる必要はなかったと主張する。
しかし、本件建物の地盤は擁壁に支えられていたのであるから、擁
壁工事によって本件建物についても崩壊の危険があったことが認めら
れるし、前掲証拠によれば、崖下、崖上とも本件擁壁付近の空き地は
非常に狭いため、そのままの状態では矢板を打ち込む機械を入れるこ
とができず、本件建物を壊さずに工事を行うことは実際上不可能であ
ったことが認められる。これに対し、被告らは軽量機械を使用すれば、
崖下から工事をすることが可能であったと主張し、《証拠略》はこれ
に沿うが、これらの機械は当時存在しなかったのであり、仮に同様の
機械が存在していたとしても、このようなスペースでは機械が入って
も工事をすることは困難で、しかも崖下の中田も土地を貸すことを被
告水戸建設に承諾したことはなかったのであるから、《証拠略》は採
用できず、崖下から工事ができたと認めることはできない。したがっ
て、本件建物を壊すという方法の選択はやむをえなかったものという
べきで、被告の主張は理由がない。
ハ 《証拠略》によれば、建物建築費用が一三○四万円、《証拠略》に
よれば、登記費用として計二二万五二五○円の合計一三二六万五二五
○円であり、原告が右各金員を支払ったことが認められる。
(三) 慰謝料について
前記認定のように、被告水戸建設の本件不法行為により、本件地下室
に虫、かび及び異臭が発生し、結局本件地下室は使用不能となって閉鎖
のやむなきに至ったこと、本件擁壁の崩壊に伴い本件土地建物も崩壊の
危険にさらされ、原告において新たな擁壁工事をせざるを得なくなった
ことが認められる。しかし、本件地下室の使用不能、本件擁壁の崩壊と
新たな擁壁の工事の必要性は財産的な損害であるから、特段の事情がな
い限り、右の点を理由として慰謝料を請求することはできないと解すべ
きである。また、本件擁壁の崩壊により本件土地建物が崩壊の危険にさ
らされたことについても、原告は右崩壊の当時以前から本件建物に居住
していなかったのであるから、慰謝料の請求を認めるだけの事情を欠く
というべきである。したがって、慰謝料としては、地下室に虫、かび及
び異臭が発生したことに対する不快感による精神的苦痛を慰謝するのに
相当な額として一○万円を認める。
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