14 神戸地裁姫路支部H7.1.30
    判時1531-92
  
・鉄骨三階建て共同住宅について、鉄骨柱と鉄骨梁との仕口(接合部)の剛接合
 の欠落や、梁と梁との継ぎ手(接合部)の高力ボルトの施工間隔(ピッチ)の
 不良等の構造上の欠陥、消防(耐火)上の欠陥、対候性能及び設備仕上げ等の
 欠陥を認定し、請負人に不法行為責任を認定した事例。
・建物の基本的・構造的部分に重大な瑕疵があり建築基準法所定の構造耐力を欠
 く場合に、再施工によって得られる利益から、本件建物の使用にかかる損耗減
 価分を控除した価値が、本件建物の瑕疵と相当因果関係にある損害と認定した
 事例。
・不法行為に基づく損害として、修補期間中の住宅等の賃料相当額、調査鑑定費
 用、慰謝料、弁護士費用を認定した事例。

 
事案の概要
1、注文者Xは、施工業者Yに対し、鉄骨三階建て共同住宅の建築工事を請け負
 わせ、引き渡しを受けた。
2、YはZに対し、建築代金未払い分の請求をしたところ、XはYに対し、反訴
 として、本件建物の鉄骨の溶接に手抜きがあり、構造上安全性が欠けていると
 して、その再施工費などの損害賠償を求めた。


 
裁判所の判断
一、本件建物の瑕疵の存否について
 1、構造上の欠陥について
 (一) 鉄骨柱と鉄骨梁との仕口(接合部)の剛接合の欠落
 (二) 梁と梁との継手(接合部)の高力ボルトの施工間隔(ピッチ)の不良
 2、消防(耐火)上の欠陥
   右事実によれば、本件建物は、耐火上の安全性に関する建築基準法令所定
  の具体的な技術水準が充たされておらず、所定の耐火性能を欠いているもの
  と推認できるから、その耐火構造には、施工及び工事監理上の瑕疵があると
  いうべきである。
 3、対候性能及び設備仕上げ等の欠陥
   そして、建物建築請負契約においては、当事者間に明示の特約がなくても、
  建物が通常備えるべき品質・性能を有し、利用上の安全を図ることが契約上
  当然合意されているものと解すべきであるから、右認定事実のうち、(1)
  外壁段窓よりの雨水侵入、(2)給排水、ガス管の床面貫通穴の閉塞不良、
  (3)ダクトパイプの継手の欠落、(4)一階駐車場床と東側道路との段差、
  (5)床排水孔の施工方法の不良は、いずれも本件請負契約に基づく施工及
  び工事監理上の瑕疵というべきである。
   しかしながら、吹付石綿の固着が欠落しているとの被告の主張については、
  本件全証拠によっても強風や人の接触により石綿が剥離し散乱する状態にあ
  るとは認められず、これをもって本件請負契約上の瑕疵と解することはでき
  ない。
二、原告の不法行為責任について
  《証拠略》によれば、(1)原告の従業員であり一級建築士たる右花田が、
 本件建物の設計及び工事監理にあたったこと、(2)鉄骨の加工・溶接及び現
 場における組立ては、原告の下請業者から請け負った田淵鉄工が施工したこと、
 (3)田淵鉄工による施工に関しては、原寸検査及び現場における組立ての際
 には、右花田ないしその補助者が立ち会ったが、溶接作業については、何ら具
 体的指示及び監督を行わず、溶接の方法が設計図書の指示通りになされている
 かの確認もしていないこと、以上の事実が認められる。
  ところで、本件建物には、前記構造上の瑕疵(溶接不良及びボルトピッチの
 指示違反)だけでなく、耐火の瑕疵、対候性能及び設備仕上げ等の瑕疵が存す
 るところ、鉄骨造建物が安全に存続しうるためには、まずもって構造耐力に関
 する具体的技術基準(法二○条一項、三六条、施行令三六条、六七条二項)を
 満たし、鉄骨構造上建物の存在応力を十分に伝達しうる構造性能を有すること
 が不可欠の条件であり、建築基準法令等が詳細な規定を設けているのも、建物
 居住者のみならず周辺住民等の生命及び財産等を保護するための最低限の担保
 とするためであると解される。してみると、建物建築の設計及び工事監理にあ
 たる建築士の職責は重大であり、建築士法の定めるところにより、建築士が工
 事監理を行う場合においては、工事が設計図書のとおりに実施されていないと
 認めるときは、直ちに工事施工者に注意を与え(同法一八条三項)、設計図書
 及びその前提である建築基準法令等の具体的技術基準を満たす工事施工を図る
 べき注意義務があるといわなければならない。
  しかるに、右認定事実によれば、右花田は工事監理者としての右注意義務を
 怠り、その結果本件建物の構造上の瑕疵を招いたものと認められるのであるか
 ら、右花田の行為は不法行為に該当するものと解される(なお、後記のとおり、
 右瑕疵によって本件建物の安全な存続を図ることは困難であると考えられ、ま
 た、建物の完成により同瑕疵が隠蔽される結果となることに照らすと、右義務
 の懈怠の違法性は高いと言わざるを得ない)。
  してみると、原告は、右花田の使用者として、民法七一五条に基づき、被告
 の受けた損害を賠償すべき責任がある
三、被告の損害について
 1、本件建物の補修方法及び損害の捉え方
   本件建物には、その基本的・構造的部分に重大な瑕疵があり、建築物の最
  低の基準を定めるとする建築基準法令(法1条)所定の構造耐力を欠くもの
  であるから、今日まで倒壊の危険を免れたことが直ちに本件建物の安全性を
  物語るものではない。また、本件は民法634条1項但書が予定する場合ではな
  く、むしろ重大な瑕疵であるからこそ補修費用も増加するものであり、原告
  の主張を前提とすれば、結局のところ、原告の帰責事由から生じた瑕疵によ
  る損害を被告において負担せざるを得ない結果となり、かえって不合理であ
  ると解される。
   もっとも、被告は、本件建物の引渡を受けた後12年余りの間、家族ととも
  に本件建物に居住してこれを使用している事実が認められ、右再施工による
  補修がなされれば、耐用年数の伸張した建物を取得する結果となる。かかる
  結果は、本件建物の補修以上の利益を被告にもたらすものであり、損害の公
  平な分担の見地から、これを是認することは相当でないと考えられる。
   したがって、被告としては、本件建物に瑕疵がなかったとしたならば、現
  在において維持されている本件建物の価値を有しておれば足り、再施工によ
  って得られる利益から、本件建物の使用にかかる損耗減価分を控除した価値
  が、本件建物の瑕疵と相当因果関係にある損害であると解される。
 2、再施工費用 2093万2500円
   本件建物の補修費用は2791万円が見込まれることが認められる。
   しかしながら、前記のとおり、使用期間相当分の損耗減価分は被告におい
  て負担すべきである。そして、かかる減価分は、結局のところ、右施工費用
  を基準にして判断するほかないから、本件に現れた一切の事情を考慮して、
  右金額の75パーセントである2093万2500円をもって、本件瑕疵と相当因果関
  係のある損害とするのが相当と考える。
 3、修補期間中の住宅賃料相当額 38万1225円
 4、登記費用及び不動産取得税相当額 97万4080円
 5、本件欠陥調査鑑定費用 120万円
 6、慰謝料 100万円
 7、弁護士費用 250万円



 

        
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