3 大阪地裁 昭和62年2月18日判決 損害賠償請求事件 判例時報1323-68 一 請負人の瑕疵担保責任に関する規定(民法634条以下)により不完 全履行の一般理論は排斥されるとした事例。 二 構造上の欠陥(鉄骨軸組架構体の歪み、鉄骨構造体の部材溶接不良、 基礎構造の不良と不等沈下)及び耐火、防火上の欠陥を認定した事例。 三 瑕疵を総合的に考慮した上で、補修方法として再築法を採用するのが 相当とした事例。 四 建築確認申請において便宜上名義を貸したにすぎず工事監理を引き受 けたものではない建築士について、不法行為責任を認定した事例。 五 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求において、弁護士費用の賠償を認 めた事例。 裁判所の判断 一 請負人の瑕疵担保責任に関する規定(民法634条以下)は、瑕疵を 生じた理由の如何を問わず、瑕疵の種類や程度に応じて適当な要件と効 果を定めたものであるから、これらの規定により不完全履行の一般理論 は排斥されると解すべきである。 二 1 構造上の欠陥について (1)鉄骨軸組架構体の歪み B建物の鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分はその存在応力を十分に伝達し うる構造になっていないことが推認でき、従って、建物の構造耐力に関 する具体的な技術基準(建築基準法20条1項、36条、同法施行令 36条、67条2項)に適合しないと解されるから、B建物の鉄骨軸組 架構体の組方には施工及び工事監理上の瑕疵があるというべきである。 (2)鉄骨構造体の部材熔接の不良 右事実によれば、A、B各建物は構造耐力上主要な接合部分において 必要とされる剛接合たる完全溶込熔接がなされておらず、その存在応力 を十分に伝達しうる構造になっていないことが推認でき、従って、建物 の構造耐力に関する具体的な技術基準(法20条1項、36条、施行令 36条、67条2項)に適合しないと解されるから、A、B各建物の鉄 骨構造体の部材熔接には施工及び工事監理上の瑕疵があるというべきで ある。 (3)基礎構造の不良と不等沈下 右事実によれば、A、B各建物の水平面及び垂直面における各傾斜が 基礎構造の不等沈下により発生したことは明らかであるが、その原因は、 敷地の地耐力につき誤つた設計がなされ、これが是正されることなくい わゆるベタ基礎構造が施工されたことに起因すると推認せざるを得ず、 かかる基礎構造は建物の構造耐力に関する具体的な技術基準(法20条 1項、36条、施行令36条)に適合しないと解されるから、A、B各 建物の基礎構造には設計、工事監理及び施工上の瑕疵があるというべき である。 2 耐火、防火上の欠陥について (1) A、B各建物の敷地は法第三章第五節所定の防火地域としては準防火 地域に指定され(この事実は当事者間に争いがない。)、その階数がい ずれも4以上であるから各建物とも耐火建築物としなければならず(法 62条1項)、従って、主要構造部(法2条5号)である柱、梁は耐火 構造(同条7号)、即ち一時間耐火被覆の施工を要する(施行令107 条1号、昭和39年建設省告示第1675号第三)。 (2) 右事実によれば、A、B各建物においては耐火ないし防火上の諸設備 につき設計図書(耐火リスト)に記載されたとおりの施工がなされてお らず(A建物についてもB建物と同様の耐火リストが作成されたものと 推測される。)、耐火、防火上の安全性に関する建築基準法令所定の具 体的な技術水準が充たされていないことは明らかであるから、その耐火 ないし防火構造には工事監理及び施工上の瑕疵があるというべきである。 三 1 建物の瑕疵の補修方法としては、建物を一旦解体、除去の上再築する 方法と、建物の瑕疵ある部遺のみを除去し修復する方法とが考えられる が、そのいずれを採用するかは、工費の多寡、工期の長短、実施可能性、 近隣、道路事情、美匠上の問題等の諸事情を総合して決すべきである。 2 基礎構造の瑕疵に加えて鉄骨構造体の部材熔接の瑕疵、B建物につい ての鉄骨軸組架構体組方の瑕疵さらには耐火、防火構造の瑕疵の各補修 をも総合的に考慮すると、瑕疵ある部分のみの除去、修復は理論上は不 可能ではないにせよ、現実に施工することは極めて困難となり、工費の 低廉性をもつてしても最早部分修復法の合理性を担保しえないというべ きであるから、補修方法としては再築法を採用するのが相当である。 四 被告日産設計が破産会社からA、B各建物の建築確認申請手続及びこ れに伴う設計図書の作成の委任を受けたことは明らかであるが、建築確 認申請書の工事監理者資格欄に被告日産設計、同堂野の記名押印がある のは、大阪市の指導に従い建築確認を得るため便宜上右被告らの名義を 用いたにすぎないことが窺われるのであつて、右被告らが工事監理を引 受けたものではないということができる。そうすると、被告日産設計の 管理建築士である被告堂野が原告らに対し、A、B各建物の工事監理に ついてその責任を負うべきいわれはないというべきである。 しかしながら、右認定事実及び前認定事実に徴すると、次のとおり指 摘することができる。すなわち、被告堂野は実際の地質調査をすること なく、地耐力が1平方メートル当り5トンあるものとして本件の設計を 行い、破産会社もまた実際の地質調査を実施することなく、右の設計図 書に基づいて本件工事を施工したが、実際には設計図書どおりの地耐力 がなく、そのため不等沈下を生じさせ、原告らに損害を生じさせたので ある。ところで、被告堂野の当面の任務は建築確認を得るところであり、 また、右の設計図書は直接には建築確認を得るために作成されたものと 認めることができるが、破産会社と被告日産設計さらには被告堂野の従 前からの関係、本件の経緯等からすると、右の設計は建築確認を得るた めのものにとどまらず、実際の工事施工のためのものでもあつたと認め るのが相当である。そして、被告堂野は、一級建築士として、設計図書 を作成するに当つてはこれを法令又は条例の定める建築物に関する基準 に適合させなければならない(建築士法2条5項、18条2項)ところ、 右各建物の基礎構造を設計するに際し敷地の地盤調査を怠り誤つた地耐 力を設定して、前記認定のとおり基礎構造の不等沈下を生じさせたので ある。従つて、被告堂野は少なくとも過失により原告らの財産権を侵害 したことになるから民法709条に基づき、被告日産設計は代表者であ る被告堂野がその職務を行うにつきなした右不法行為につき法人として 民法44条に基づき、各自右設計上の瑕疵により原告らが被った損害を 賠償する責任がある。 五 本件瑕疵の内容、程度、態様は鉄骨造の建築物として基礎的かつ重大 なものであることや、瑕疵の発生原因に加えて契約成立の経緯に補修交 渉の経緯等の事情に照らせば、破産会社の負う瑕疵担保責任の内実は反 社会性ないし反倫理性の程度において不法行為責任に匹敵すべき違法性 を有するので、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求においても弁護士費 用の賠償を認めうる。
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