9 千葉地裁松戸支部 平成6年8月25日判決 判例時報1543-149
・ 売主の瑕疵担保責任に基づく損害賠償として建物の価格を最高限度 とする瑕疵修補費用相当額が認容された事例 裁判所の判断 ところで、被告富士物産は、仮に同被告が、瑕疵担保責任を負うとし ても、その賠償の範囲は、信頼利益に限られるところ、本件損害は、す べて履行利益であって、信頼利益に該当しない旨主張するので、この点 について検討する。 なるほど、瑕疵担保責任の賠償の範囲は、信頼利益に限られるといっ てよい。しかしながら、本件損害が、信頼利益に該当しないというのは、 疑問である。 すなわち、一般的に、信頼利益は、「当該瑕疵がないと信じたことに よって被った損害」、或は「当該瑕疵を知ったならば被ることがなかっ た損害」と、履行利益は、「当該瑕疵がなかったとしたら得られたであ ろう利益」と定義される。 右の区別は、抽象的には、一見明白である。そして、具体的な適用に 当たっても、買主が、契約の目的を達しないとして、当該契約を解除し た場合には、信頼利益の範囲を、買主が、当該契約締結のために費やし た費用(調査費用、登記費用、公正証書の手数料、印紙代)、受入れ態 勢を準備したことによる費用(建築設計費、材料購入費)、請負人等に 支払った違約金、瑕疵担保責任を訴求した費用等の損害に限定し、いわ ゆる転売利益等の得べかりし利益を排除するものであるとして、右の区 別は、比較的明瞭である。 しかしながら、本件のように、契約を解除しないまま、買主が、いわ ば瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めるような場合に、右修補費用担 当の損害が、信頼利益又は履行利益の、どちらに該当するかを判断する ことは、一転して、著しく困難になり、果たして、その区別の意味があ るのか否かさえ疑問になる程である。けだし、瑕疵修補費用相当額は、 「当該瑕疵がなかったとしたら得られたであろう利益」に該当するだけ ではなく、まさに、「当該瑕疵を知ったならば被ることがなかった損害」 にも該当すると思われるからである(本来であれば、瑕疵担保責任の意 義とその本質から説き起こすべきところであるかもしれないが、周知の とおり、瑕疵担保責任をめぐる民法学説の理論的状況は、現在、より一 層錯綜を極めており、当裁判所は、この点について深入りすることは控 えたい。)。 もし、瑕疵修補費用相当額は、信頼利益に該当しないというのであれ ば、右のような場合における信頼利益とは、一体、どのようなものをい うのであろうか? 想定することが困難である。そうだとすれば、結局、 瑕疵担保責任の賠償の範囲は、信頼利益に限られるといっても、それは、 転売利益等の得べかりし利益を排除すれば足りるのであって、瑕疵修補 費用相当額の賠償責任まで、これを履行利益だとして全面的に否定する 必要はないものというべきである。 但し、当裁判所は、公平の見地から、当該物件の売買代金の価格を超 えることは許されず、右価格を、最高限度額とすべきであると考える。
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